只管打坐・只管打算 その3

その2で示した球対称で動きのないブラックホールが存在する時空を表すシュヴァルツシルト解に比べ,一定の速度で回転しているブラックホールに対応する解であるカー解はだいぶ複雑です。具体的には下のようになります。


この解には 「a」という文字が入っていますが,これがブラックホールの回転の大きさを表す量です。試しに a をゼロにしてみるといくつかの項が消え,数式が簡単になります。少し計算してみるとわかりますが,a をゼロにするとその2で紹介したシュヴァルツシルト解に一致します。カー解は回転しているブラックホールに相当しますから,回転をゼロにすれば止まっている解,すなわちシュヴァルツシルト解になるのは理にかなっています。

アインシュタイン方程式を解きカー解を導くのも,シュヴァルツシルト解を導くのに比べるとだいぶ面倒なのですが,面白いことに,シュヴァルツシルト解からカー解を機械的に導いてしまう方法があります。それは直接アインシュタイン方程式からカー解を導くより簡単で,その方法は Newman-Janis trick と呼ばれています。method(方法)ではなく trick という言葉が使われていることからわかるように,この方法を使うと「なんだかよく分からないけれども欲しい解が求まってしまう」というところがあります。

只管打坐・只管打算では,小林研の4年生がこの Newman-Janis trick を使って,シュヴァルツシルト解からカー解を導く計算を実演しました。制限時間は1時間半。途中経過を時々実況しながら,参加者の皆さんと計算を見守りました。

ブラックホールを直接手に取ることはできません。そしてブラックホールの理論である相対性理論は私たちの身体的直感とはだいぶ乖離しています。「計算」は,そうした「非日常」について納得するための強力な武器です。計算を通じ,体を少しずつその世界の「ルール」に慣らしていくのです。

計算を担当した学生,実はこの日初めて Newman-Janis trick に挑戦したのですが,少しずつ計算に没頭し,深く集中していく様は,まさに只管打算。只管打坐と同じく,雑念を振り払って「向こうの世界」を全身で味わっていました。その結果,見事,制限時間内に計算も終わり,会場からは大拍手!

こうして僕らがいつも行なっている「計算を通じてその世界を体感する」という営みを皆さんに見ていただくことができました。次回 Vol.2 のではさらにエンターテイメント性を高め,2人の学生による計算バトル(実況・解説付き)をお見せしますので,お楽しみに!!!

Kobayashi Shinpei / 小林晋平 Website

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