カーボンナノチューブ・ブラックホール・非可換幾何学
専攻科の特別研究(大学の卒業研究にあたる)で学生とカーボンナノチューブからの電界放出現象について調べている。カーボンナノチューブとは、炭素原子がシート状にいくつも繋がった「グラフェン」を筒状に丸めたものである。筒の半径がナノスケール(10のマイナス9乗メートル程度)であることから、ナノチューブと呼ばれる。引っ張る力に対してとても強いことから建材への応用を始め、幅広い分野で使われている。
僕らが関心を寄せているのは、そのナノチューブから電子が放出される現象である。もともとは、ナノチューブ1本でラジオの役割(うまくチューニングすることで電波信号をキャッチし、そこから情報を読み取り、それに応じた電気信号を回路に流す)を全てこなすことができるという「カーボンナノラジオ」の存在を知り、興味を持ったのがきっかけだった。その背景にある物理を調べているうちに、一番本質的な部分であるカーボンナノチューブからの電子の放出について詳細に調べてみようということになり、特別研究の課題として取り上げることになった。
この研究テーマは工学の領域だが、面白いもので、この現象自体は僕の専門分野である宇宙論とも関係している。というのは、カーボンナノチューブ内部の電子の運動は実質的に空間1次元に閉じ込められているために特殊な性質を持っているのだが、超弦理論から予言されるある対応関係によって、その電子の運動と、ある種のブラックホール時空とに対応がつくのである。中身をだいぶすっ飛ばすと、炭素でできた筒の物理とブラックホールの物理には対応関係があるということだ(本当にかなりすっ飛ばした)。
さらに面白いことに、以前から扱っていた非可換時空における重力現象をより一般的に拡張しようとしていたら、そこで現れた計算が、カーボンナノチューブからの電子放出に関連する計算と同じであることがわかった。どれも根底では同じ数学に従っていたということなのだが、このように「根っこで繋がっていた」というのは物理をやっていて非常に楽しいところだ。ちゃんと議論を詰めないといけないところはまだまだあるが、面白い展開になってきたのは間違いなさそうだ。
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