実は深い実験 その4
この計算をするときは「組み合わせ」の計算を使うと簡単にできます。
玉の数が少ないと,均等に分けるパターン数は不均一な分け方に比べてさほど多くありませんが,玉の数を増やしていくと事情が変わってきます。例えば10個の玉を5個ずつに分けるパターンは252通りであるのに対し,4個と6個または6個と4個に分けるパターンは210通りずつ,3個と7個または7個と3個に分けるパターンは120通りずつ,2個と8個または8個と2個に分けるパターンが45通りずつ,1個と9個または9個と1個に分けるパターンが10通りずつ,0個と10個または10個と0個に分けるパターンは,全て左の部屋に入れるか全て右の部屋に入れるかの1通りずつです。
パターン数ばかり書いていてもわかりにくいので,それぞれのパターンがどんな確率で実現するか,グラフで書いてみましょう。10個の玉が左の部屋に何個入っているかによって,それが実現する確率がいくつになるかを図にすると下のようになります。5個ずつ均等に分かれる確率が一番高く,左に0個で右に10個や,左に10個で右に0個に分かれる確率はほとんどゼロになっています。
これは全部で10個の玉を分ける方法でしたが,全部で100個にすると,50個ずつ均等に分けるパターンと100個の玉を左に49個,右に51個に分けるパターンとの差はおよそ10の27乗通りにもなります10個の場合と同じように,左に何個玉が入っているかを軸にとり,そのパターンが実現する確率をグラフにしてみると,下のようになります。
この図の横軸を見ると,横軸の値が50のところに山の頂点があり,山の裾野は横軸40〜60くらいの範囲で広がっています。逆に,0〜40や70〜100のところはほとんど高さがありません。高さは確率の値を表しているので,これは左の部屋に入っている玉の個数が0〜30,70〜100くらいになる確率は非常に小さくて実際には起きず,ほとんどの場合は左の部屋に40〜60個くらいの玉が入るパターンが実現されるということです。すなわち,左と右の部屋にだいたい均等に玉が分散するパターンが,実際には実現される可能性が高いということです。
さらに数を増やし,1000個の玉を500個ずつに分けるパターンと,1000個の玉を左に499個,右に501個に分けるパターンとの差に至っては,10の296乗もの大差がついてしまいます。 この場合もグラフにしてみると,以下のようになります。
このように,左の部屋に玉が450〜550個入っているとき,すなわち左右の部屋にだいたい同じくらいの数の玉が入る確率が圧倒的に高く,玉が不均一になる確率はほとんどゼロであることがわかります。玉の数を1万,1億,1兆…と増やしていくと,この傾向はますます顕著になります。
しかも,例えば部屋の中の空気分子の数は100や1000どころではなく,1兆の1兆倍など,非常に大きな数になります。そう考えると大量の粒子が2つの部屋のどちらかに散らばるとき,2つの部屋に均質に広がる場合のパターン数が極めて多くなります。そのため左右の部屋にほぼ均質に分布する確率がどちらかに偏る場合に比べて非常に高くなり,結果として私たちは均質に広がった様子を(ほとんど毎回)目撃することになります。 スプレーから出たガスが部屋中に拡散し,独りでに戻ってくることがないのは,不均質に分布する様々なパターンに比べ,均質に広がる場合の方が圧倒的に多いために,均質に広がるパターンしか実質的に目にすることがないからなのです。
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